
平成の名水百選に県内で唯一選ばれた、新居浜市の湧水スポット「つづら淵」
石鎚山脈の気候と水に恵まれ
愛媛はナイスな酒どころ
酒どころ、と聞くと美しい雪景色の北国をイメージする方が多いかもしれませんが、実は愛媛にもおいしいお酒が生まれる条件が揃っているんです。
まずは気候。西日本最高峰の石鎚山をはじめとした四国山地では、冬になると雪が降り積もり、お酒を醸すのに適した寒さになります。
そして水。愛媛は石鎚山脈のおかげで、西条市の「うちぬき」や新居浜市の「つづら淵(ぶち)」など名水にも恵まれています。
現在、県酒造組合によると愛媛には39の蔵元があり、それぞれが個性豊かな酒造りを行っています。
今回はその中でも新居浜市で唯一の蔵元、近藤酒造さんにお話を伺いました。
実は近藤酒造さんは2001(平成13)年までは蔵を休業し、卸売業をメインとしていたそうです。

「華姫桜」は、蔵元復活後、全国新酒鑑評会で平成20年度と平成26年度に金賞を受賞した“返り咲き”の銘酒。
新たな味を醸し出せ!
復活の酒蔵の物語
蔵が再開するまでには、現代表である近藤嘉郎社長の、血のにじむような努力がありました。
ワインや焼酎ブームに押される中、酒造りの厳しさを知る4代目の父や周囲の人々からは反対され、それでも近藤社長は蔵の復活を目指して、自ら酒造りを始めます。
他社の蔵元を見学し、酒造りに携わる先輩や友人たちの話を聞き、時には教科書とにらめっこ。
初めて小さなタンク2本分の酒が仕上がった日のことは、今も近藤社長の胸に深く刻まれているそうです。
その後、全国新酒鑑評会で2度の金賞に輝いた近藤酒造さんですが、原点はやはり地元・新居浜。「気候に合わせたさじ加減や火加減で、地元の風土をどう表現するかが大切」と近藤社長は語ります。

松山三井の契約農家さんと近藤社長(写真中央)。新居浜の酒造りに携わる両者は、固い絆で結ばれています。
近藤酒造の銘酒「華姫桜(はなひめさくら)」には愛媛オリジナルの酒米「松山三井(みい)」や「しずく媛」を使用しています。
米の旨みが乗りやすい松山三井は、純米酒にぴったりで、愛媛の料理の名脇役。
松山三井から生まれ、大吟醸などの芳醇な味わいのお酒に向いているのが「しずく媛」です。
松山三井を栽培する契約農家さんもまた、酒造りに関わるプロフェッショナル。
日々の天候を細かく記録するほどの仕事ぶりと併せて、農家としての揺るぎないプライドを持った方で、近藤社長にも良い意味での緊張感を与えてくれるのだそう。
「農家さんの仕事に応えるために、この酒米を使ってしっかりとした質の酒をつくらないといけませんからね」

新居浜太鼓台のラベル。好評を受けて増やしているうち、最終的に全54地区を制覇してしまったのだそう。
そして新居浜といえば四国三大祭りの一つ、太鼓祭り。
近藤酒造ではなんと、54地区すべての太鼓台の写真をラベルに起用したお酒を販売しているのだそう!
地元の方には大好評で、近藤社長は毎年、数百枚もの写真から各地区のベストショットを選定しているのだそうです。これも地元愛がなせる業ですね。
「新居浜の料理に合わせた旨口が、近藤酒造の味の特徴です。周りから『もっとこうしたほうがいいよ』という意見をもらって迷うこともありました。でも『今の味でいいよ、うちがこのお酒を買うから!』と言ってくださった業者さんがいて、自分のスタイルを貫くべきなんだと確信が持てたんです」と近藤社長。
今回ご紹介したのは、39ある蔵元のうちの1つの物語。
蔵元ごとにさまざまなドラマがあり、お酒の味も異なります。
そしてその味は、その蔵元の、その年でしか楽しめないものです。
愛媛の地酒を飲んでみて「これが好き!」と思える味に出会ったら、そのしあわせな出会いを大切にするためにも、ぜひ、そのお酒の良さをたくさんの方に伝えて、魅力を広めちゃいましょう。
松山三井を食べてみた

大粒であっさり、お酒にも主食にもなれる「デキるお米」
酒米として活躍している松山三井ですが、実は本来「食用米」なんです。
気になるその味を確かめるべく、試食してみました。
大粒のため、水を多めに入れたり、浸水時間を長めにして炊くのがおいしくいただくコツ。
炊き上がった松山三井を口に含むと…
あっさり、さっぱりとした味わいで、米粒には噛み応えがあります。
他の品種と比べると、粘り気はかなり控えめ。
…ということは、チャーハンにぴったりなのでは?
そう思って調理してみると、予想は的中!
パラパラ、ふんわりとした最高のチャーハンに仕上がりました。
お酒にも主食にもなれる魅力を備えた松山三井。
愛媛県内にもなかなか出回っていないレアなお米なので、見つけたらぜひお試しあれ。
(2021年3月)
