
キュッと身が引き締まり鮮やかな赤色が美しい鯛。この後、トラックで豊洲に運ばれます。
1位の座は明け渡さない!
シェア拡大独走状態の愛媛県
魚の王様といわれる真鯛。日本人にとっておなじみのこの魚は、愛媛県の県魚です。
愛媛県は平成2年に養殖鯛の生産量で日本一になり、以来30年以上トップの座を守り続けています。平成2年に18%だったシェアは、平成30年には56%にまで拡大。その結果2位以下の県を大きく引き離して独走状態が続いているのです。
それほどの圧倒的生産量を誇る愛媛の真鯛は、どのように育てられているのでしょう。愛南町の「安高水産」さんを訪れ、養殖現場を拝見しました。

鯛の稚魚を麻酔の入った海水に入れた後、1匹ずつやさしく手作業でワクチンを打ちます。
まずは鯛の養殖の大まかな流れを教えてもらいました。
「業者さんによって様々ですが、うちの場合、まず、鯛の稚魚を業者さんから購入するところからスタートします。活魚船で稚魚を運んできて、最初に病気の予防のためワクチンを接種します」と社長の安岡さん。
真夏以外は毎月稚魚を購入し年間170万匹もの鯛を出荷しますが、その1匹1匹に、手作業でワクチンを打っているのだそう。健康に育ってほしいという鯛への愛情が感じられます。
「陸に近い稚魚専用の生簀(いけす)である程度まで育ててから、沖の大きな養殖生簀に運びます。重さ1kgくらいまで成長すると順次出荷していきます」。
1kg(40cmくらい)になるまで約1年半、2kg(50cm超)には2年から2年半くらいかかるそうですよ。

圧倒的な地理的優位性
それに甘えない職人の誇り
鯛が育つ海にも、何か秘密があるのでしょうか?
「宇和海は養殖にとって、圧倒的に条件がいいんです。水温が暖かく、太平洋から流れ込む黒潮で海の中がうまくかき回されて、栄養豊富で酸素濃度が高いのが特長です。それにリアス式海岸が波から養殖生簀を守ってくれているんですよ」。
水深も約40m以上と深いので、鯛がのびのび泳げる上に、海底の寄生虫に感染するリスクも低いそう。
確かに恵まれた環境ですが、安高水産さんら養殖業者のみなさんは決してその恩恵に頼りっぱなしではありません。水温や気候、餌の種類や量などのデータを集積し、細かく分析して、稚魚を沖に移すタイミングや生簀の場所などきっちり管理しています。職人魂を感じずにはいられません!

活魚で出荷する場合は、輸送中のスレ傷を防止できる専用のケースに1匹ずつ入れて運びます。
味だけでなく美しさまで追求
真鯛養殖にかける情熱
美味しくて美しい鯛を育てるために養殖業者さんが行っている努力や工夫には、驚くようなことがたくさんあります。
例えば、鯛の美しい「赤色」のための工夫。日焼けを防止するために黒い遮光シートを生簀に被せることがあるそうです。鯛も日焼けするのですね。
またエビを餌に配合して鮮やかな赤色を出す方法もあるそう。
餌は身質や味に影響するので、各社が目指すこだわりポイントに向かって工夫を凝らすそうです。みかんやイチゴ、ハーブの配合などさまざま!
養殖の鯛は、安全で安心できる環境で育っていること、サイズが均一で美しく、量も美味しさも安定しているのが魅力。その魅力を最大限ひきだすために、養殖業者さんが惜しみない努力を重ねているのですね。

餌の低魚粉化を進めている安高水産さん。魚粉ゼロの餌での飼育にもチャレンジしているとか。
ずっと鯛を食べられるように
養殖業界の未来のために
これからの水産業を考え、安高水産さんでは「SDGs」を意識した養殖を行っています。
海を守ることはもちろん、海の中に生きる生物も守る取り組みです。
「近年は餌の魚粉の割合を減らす取り組みを始めました。魚粉は南米の天然アンチョビが主原料なのですが、その漁獲量を減らすことが大切です」と安岡さん。
他にも、餌のためだけに新たに魚を獲らない工夫として、無頭エビなど加工の際に出るカスを餌に利用している養殖業者さんもいるようです。
安岡さんは「これからは養殖業界もサステナブルな方向へ移行していくと思います」と話してくれました。
自然の恩恵を最大限に生かしつつ、もっと良い真鯛になるように、また未来を守るために、努力を続ける愛媛の鯛養殖業者さん。感謝の気持ちを持って真鯛を味わいたいと思います。
鯛が一番美味しいタイミングは?

実は時間が経った方が美味しい?!
鯛は、締めてから数日後の方が美味しいと言われていることをご存知ですか?
「腐っても鯛」という言葉がありますが、時間が経っても美味しいことが語源という説もあるようです。
安岡さんによると「もちろん好みもあると思いますが、イノシン酸が豊富な鯛は、締めてから3〜4日後が旨みが多くて美味しいですよ」とのこと。ただ身が柔らかくなるので、コリコリとした食感を楽しみたい方はもう少し早めがオススメ。
身に脂が乗った産卵前の12月〜3月頃は、さらに美味しいそうですよ。
ちなみに、鯛は全身の30%くらいしか食べるところが無いのだとか。例えば1匹丸ごと食べられるイワシに比べれば「割高」。なるほど、確かに高級魚です。
おめでたい時は愛媛の鯛で、「めで鯛」気分をさらに高めてみませんか?
(2021年3月)
