
江戸時代に大洲藩を支えた
“天下一”の品質を誇る紙
国の伝統的工芸品に指定されている大洲和紙は、大洲市ではなく、隣町の内子町で生産されています。江戸時代、内子は大洲藩だったのでその名で呼ばれるのだそう。
大洲和紙は、江戸時代の経済書の中に「大洲半紙の勢ひ天下に独歩せり」、つまり「他に並ぶものがないほど優れている」と記されるほど良質で、大洲藩の経済を支える産業として生産が勧められていました。明治末期には、内子を流れる小田川沿いに400軒以上の製紙業者があったということです。
機械による製紙が盛んになり、業者数はどんどん減少し、今では4軒だけ。でも、昔ながらの手漉(す)きの技は受け継がれています。

大正初期に創業の天神産紙
若い職人さんのスゴイ技!
昔ながらの手漉きって一体どんなものなのでしょうか。というわけで、小田川の東にある天神産紙へ見学に行きました。大正初期創業の歴史を感じさせる工場の一番奥に、紙漉きを行うスペースはありました。
「流し漉き」という方法で紙漉きを行っていたのは、意外にも若い女性でした。職人歴9年目だという職人さんの手漉きの技を拝見。
水に原料を混ぜた液が入った水槽の中に「簀桁(すけた)」と呼ばれる木製の道具を入れて紙料液を汲み取り、それを水槽から上げて揺り動かすという動作を、何度も何度も繰り返します。回数を重ねるごとに簀桁の中に残る紙の繊維が少しずつ少しずつ厚くなっていくのが分かりました。そして、この紙漉きがいかに難しく、技と力が必要かを後に体感したのです。(こぼれ話参照)

漂白された楮(こうぞ)を手でほぐしながらゴミなどが混ざってないかを見て取り除きます
手漉きまでの工程を紹介!
原料は植物です
手漉きの前後にも手間のかかる工程は続きます。
漉くまでの工程を簡単に紹介すると、次のような流れです。
① 楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった原料を蒸煮。
② ①を漂白し、水洗いし、ゴミなどを取り除きます。
③ 原料を機械で叩き、繊維を毛羽立たせながら、解きほぐします。
④ 水槽の中に原料と、トロロアオイという植物の粘液を混ぜ合わせます。
そして手漉き工程へ。そこから和紙が出来上がるまでに1週間ほどかかるそうです。

自然乾燥させた後、一枚ずつ剥がして鉄板乾燥機の台にのせます
ていねい&手早く
熟練の手と目でつくる
漉き終わった後の工程は次のような流れです。
① 一晩寝かせた後、圧搾機で脱水。
② 天日干しの後、鉄板乾燥機で一枚ずつ乾燥させます。
③ 品質をチェックし、選別。
④ 規格に合わせて裁断。
原料のゴミを取り除くのも手作業ですし、乾燥の際に一枚一枚鉄板にのせ、刷毛で撫でつけながら張り付けるのも手作業です。選別も人の目と手で行われます。
どの作業にも熟練が必要で、丁寧さと手早さも求められます。
製造技術を守ることは大洲和紙そのものを守ることであり、その歴史を絶やさないように天神産紙では様々な努力をしながら職人を育て続けています。

ギルディング和紙に注目
インテリアやアートの世界へ
かつて大洲和紙の主力商品は書道半紙と障子紙だったそうです。これらは時代とともに需要が減ってきましたが、「五十崎社中」が手がける「こより和紙」や「ギルディング和紙」など新しい和紙商品も誕生しました。「こより和紙」は和紙で作ったこよりを簀桁の中に編み込んでから漉き上げるもので、ギルディング和紙はヨーロッパの金属箔装飾「ギルディング」加工を施したもの。
天神産紙工場内にある「五十崎社中」のショールームには、それらを使って作られたインテリアや雑貨がバラエティ豊かに並んでいます。五十崎社中の作品は、ヨーロッパのインテリア展示会で注目を集めたり、道後温泉飛鳥の湯に使われたりと、話題を呼んでいます。
五十崎社中の代表・斎藤宏之さんは大洲和紙のこれからについてこう話してくれました。
「インテリアやアートの分野でいろいろな使い方ができると思います。その可能性を広げていきたいし、アピールしていきたいです」。
念願の手漉き和紙づくりを体験

やって分かった!かなり大変だけど、大感動
天神産紙で手漉き体験ができると聞き、挑戦してみました。職人さんの説明を聞き、お手本を見せてもらいます。職人さんが使う水槽より随分小さな、小ぶりのシンクぐらいの水槽と、これまた小さな簀桁を使っての体験です。「このサイズなら簡単そう」と挑戦!水槽に簀桁を入れるまではよかったのですが、簀桁を上げようと思っても重くて簡単には上がりません。厚みがかたよらないように簀桁を揺り動かさなければならないのですが、思うように操れません。職人さんに助けてもらってどうにかできたという感じ。簀桁からすだれをはずし、すだれから乾燥機の台の上に漉いた紙を張り付けます。乾燥したら、台から引きはがして体験終了。出来上がった約40㎝×55㎝の大洲和紙を職人さんから手渡されたら、「私の漉いた紙だ」と押し寄せる感動とともに、職人の道は険しいということもよく分かりました。
(2021年3月)
