
砥部町では道路の白線も「砥部焼」モチーフ?!
知っているようで知らない
砥部焼のこと、磁器のこと
「砥部焼」をご存知ですか?
丸みを帯びたぽってりとしたフォルムに、つるりとなめらかな丸縁の器。白磁に藍色の呉須(ごす)で描かれた唐草模様。うどんの丼の…と言えば、多くの人がピンとくるのでは?丈夫で手になじみの良い砥部焼は普段使いにぴったりで、同時につい見惚れてしまう美しさもあります。
240年を超える砥部焼の長い歴史の始まりは、江戸時代にまでさかのぼります。藩主の命を受けて磁器作りを始めた杉野丈助(すぎのじょうすけ)が、苦労の末、1777年に白磁の焼き上げに成功。砥部焼の誕生です。その後も技術改良を重ね、愛媛の伝統工芸として根付き、現在は100近い窯元があります。昭和51年には国の「伝統的工芸品」にも指定されました。

砥部町にある砥部焼伝統産業会館。歴史的資料から現代の作品まで、さまざまな砥部焼が揃っています。
産地である砥部町は、愛媛県の真ん中あたり、中予地方にある自然豊かな町です。奈良・平安時代から砥石を産出し「伊予砥(いよと)」の名で知られていました。砥石は刃物などの研磨に使われる石。実はこの砥石が、砥部焼誕生のきっかけになるのです。
江戸時代、砥部では砥石の生産で栄える一方、切り出し時に出る大量の石屑の処理に頭を悩ませていました。ある時、藩は、これが焼き物の材料になるという情報を入手。さっそく村人に磁器作りを命じたというわけです。
後に砥部で質の良い陶石が採れることがわかり、砥石よりも白い陶石を使った磁器が砥部焼として定着しました。

一つのかたまりだった粘土が、ろくろの上であっという間に器のカタチに!
砥部の地中に静かに眠る
宝物のような陶石
ここまで読んで、あれ?と思った人もいるのではないでしょうか?焼き物の原料って、「土」じゃないの?
そう、砥部焼など磁器の原料は、土ではなく「石」なのです。
磁器とは、陶石を細かく砕いて粘土にし、高温で焼き上げた器。一方で、陶土、つまり土を原料とし磁器よりもやや低温で焼くのが陶器。一般的にはそう定義されています。
実は陶石が採れる場所は、世界でも朝鮮半島、中国、タイ、そして日本だけ。それも長年の採掘で陶石は徐々に枯渇し、閉山する鉱山も多いのが現状です。かつては砥部にも複数の採石所がありましたが、現在、砥部で陶石を採掘しているのは1ヶ所のみ(「伊予鉱業所」が運営)。
しかし砥部の地中には、まだまだ多くの陶石が眠っているのだそうです!

ライフワークとして、国境のない地球儀のモニュメントなど大きな作品を作り続けている白潟さん。
教えてくれたのは、砥部焼の窯元のひとつ、八瑞(はちずい)窯の白潟八洲彦(しらかた やすひこ)さんです。老舗の窯元、梅山窯から陶石の埋蔵量を調べた資料が出てきたのだそう。
「昭和49年、当時の窯業試験場や地質調査員などで構成されたメンバーの調査資料によると、砥部の陶石はまだまだ豊富で、数カ所に100万tの陶石が埋蔵されていると記されています」。
なんだか宝物が埋まっているような、ワクワクするお話です。
そしてさまざまなところで採れる石は、それぞれ個性も違うのだとか。「砥部町内で採掘されたそれぞれの陶石で、自分にあった杯土(はいど:陶磁器の素地になる土)を作ることが大事だと考えています」と白潟さんは話してくれました。

従来の砥部焼とは違ったイメージの砥部焼も登場。時代やニーズに合わせた変化や広がりも。
地元産を一途に守りながら
時代とともに進化する
ちなみに日本で採れる陶石の約8割は、熊本県の天草で産出される天草陶石で、全国各地の磁器生産地へ原料として出荷されているそうです。
一方、砥部の陶石の埋蔵量はまだまだあり地元産の原料で砥部焼を作ることができます。まさに砥部町生まれの貴重な焼き物だと言えるかもしれませんね。
昔ながらの特徴をそのままに引き継ぐ色や模様の砥部焼に加え、現在では個性豊かな砥部焼も登場しています。さまざまに進化し続けながらも、昔も今も砥部の地中で採れた陶石を使い、作り続けられている砥部焼。日常の中で大事に長く使っていきたいですね。
こんなところに「砥部焼」発見!

サイクリングの道しるべ「ブルーライン」にも砥部焼が
製造過程の割れやヒビなどで商品にできなかった砥部焼きはどうなるのでしょう?捨ててしまうなんてもったいない!
ご安心を。実はサイクリスト向け路面標示用塗料「媛マルライン」の原料として使用されています。砥部焼協同組合・砥部焼販売組合で回収し工場に運ばれ、粉砕、ふるい分けされた後に、シリカやホワイトビーズと共に原料の一部となるのです。砥部焼を混入すると、路面標示用塗料の上で滑りにくくなると証明されているそうですよ。
ブルーラインの塗料にも砥部焼が再利用されているなんて、サイクリングパラダイスの愛媛県ならではですね。
(2021年2月)
