

第1回大会は四国中央市内の商店街で開催(写真提供:書道パフォーマンス甲子園実行委員会)
地域を元気にするために
筆をとった学生たち
巨大な筆と紙、凛々しい袴。音楽に乗せてダンスや表情で魅了しながら、想いを込めた書を、高校生たちが力強く揮毫(きごう)する光景。
「書道パフォーマンス甲子園」という大会を、2010(平成22)年公開の映画や、テレビ番組をきっかけに知った方も多いのではないでしょうか。
そのルーツは愛媛県立三島高等学校の書道部が地元で行っていた、音楽に合わせて大きな紙に歌詞を書く書のデモンストレーションです。地元・四国中央市の地域活性化を目的としていたこの活動は、やがて自治体や地元メディアに注目され、全国の高校生を対象とした大会へと発展を遂げることになりました。

力強いメッセージに胸を打たれる、第12回大会の優勝作品(写真提供:書道パフォーマンス甲子園実行委員会)
書道パフォーマンス甲子園の審査には、書道とパフォーマンスの2つの部門が設けられており、各部門の合計が同点の場合は、書道部門の点数が高い方が上位となります。
また礼儀作法も重んじられ、演技の前後には「お願いします」「ありがとうございました」の発声が定められています。
つまり、書道パフォーマンス甲子園は「書の道」の基本ができていてこそのパフォーマンスなのです。
残念ながら第13回大会は中止となってしまったものの、学生たちが筆を走らせる様子をぜひ生で見たい!
ということで、2020(令和2)年12月某日、四国中央市にある三島高校書道部を訪ねました。

他の人が書いた字の大きさや余白のバランスを意識しながら、一つの作品をつくりあげていきます。
あらゆる所作が美しい
合同制作の現場を目撃
この日は同市内にある川之江高校書道部と合同で、外部から依頼された書を揮毫するとのこと。
企業や団体から依頼を受ける機会は多く、地元の建設会社の交通安全スローガンを制作することもあるのだとか。
書の力で地域に貢献するという、書道パフォーマンス甲子園の初心ともいえる活動が、今も続けられていることに感動しました。
さらに感動したのはチームワークです。
練習を終えると片付けをして、本番用の紙を広げ、自分の担当する字を書いたら、筆と墨の入ったボウルを次の人に渡します。
文章にするとなんでもない一つひとつの所作が、全て無駄なく美しいのです。
ほうきを取ってごみを集めるその動きすら、位置やスピードがあらかじめ決められているかのよう。

依頼元から提示されたテーマに沿って、どんな作品に仕上げるか部員みんなでアイデアを出し合うのだそう。
作品が完成したところで、三島高校の部員の一人に話を伺いました。
以前から書道を習っていた彼女は、生で見た書道パフォーマンス甲子園に心奪われ、書道部に入るために三島高校への進学を決めたのだそうです。
「作品について部員みんなでアイデアを出し合っていると、意見がぶつかることもあります」
けれどそれはケンカではなく、切磋琢磨している証だということは、この日の作品を見ても明らかです。
ちなみに作品の「新風」の文字は朱ではなく蛍光オレンジのため、実際に見るとかなり鮮やかな色合いで、一際目を引きます。こういった色墨の配合が得意な部員もいるのだとか。
一つの作品は、まさに部員たちの総力を結集して生み出されているんですね。
最後に、彼女にこれからの目標を尋ねてみました。
「まずは大会の本戦に出場すること。そしてパフォーマンスを見ていない方にも、書から私たちが込めた思いが自然と伝わるような作品をつくっていきたいです」
一人ひとりの志の高さ、部員みんなが支え合う姿勢、細かい部分まで丁寧にやり抜く粘り強さ。それらが調和しているからこそ、この大きな紙に、大胆かつ整然とした書を揮毫することができるのでしょう。
書道パフォーマンス甲子園の本質はやはり「書の道」なのだと、改めて感じさせられました。
地元の紙で、書いて称えて彩って

優勝筆の写真提供:書道パフォーマンス甲子園実行委員会
紙のまち・四国中央が誇る繊細で美しいアイテム
紙製品の製造品出荷額等で長年全国トップを誇る四国中央市。
書道パフォーマンス甲子園は、そんな日本一の「紙のまち」四国中央市を代表する夏の行事「四国中央紙まつり」におけるイベントのひとつとしてはじまりました。
そのため大会の随所に「紙のまち」としての技術が光っています。
たとえば三島高校書道部の衣装には、水引の飾りで華やかさをプラス。
表彰式で渡される巨大な「優勝筆」も水引製です。
さらに大会本戦で使用される紙も、地元企業による特注品。
…といっても、書道部が普段から質の良い紙をたくさん使えるわけではありません。
練習時や書いた字の墨を吸い取るときは、古い紙を再利用。
紙を最後まで使い切り、感謝の気持ちを忘れない。
「紙のまち」に住む人々の誇りと思いやりが見てとれました。
(2021年2月)
